私たちの取組み
ご法話
子ともたちに伝えたいこと
中央仏教学院学院長 福間義朝
2025/07/24

2016年5月27日、アメリカのオバマ大統領(当時)が広島を訪れました。広島平和記念公園の原爆死没者慰霊碑にアメリカの大統領がお参りされることは、日本の悲願でした。なぜなら、第2次世界大戦中、日本とアメリカは戦争をし、広島と長崎に原爆を投下したのはアメリカだったからです。
慰霊碑の前でスピーチを終えたオバマ大統領がハグをしたのが、森重昭さんという方でした。オバマ大統領はどうして森さんとハグをされたのでしょうか。
森さんも被爆者です。森さんは、アメリカの人が驚くことをしたのです。広島に投下された原爆で、アメリカ兵捕虜が12人亡くなっていました。しかし、アメリカは戦後しばらく、そのことを発表しておらず、行方不明とされていました。森さんは12人のアメリカ兵のことが気になりました。
森さんご自身も被爆され、まわりでたくさんの人々が苦しんで亡くなってゆかれるのを見ています。捕虜となったアメリカ兵も苦しんで死んでいったことでしょう。森さんは、ご遺族にそのことを知らせなくてはと思われたのです。
まず12人のアメリカ兵捕虜を見た人を探し、原爆投下前、その人たちがどんな様子だったのかを聞き取り、12人の名前を調べ、アメリカで暮らすご家族の住所を調べていきました。12人のアメリカ兵捕虜の家族を探すために、40年以上の時間を費やし、そしてご家族に知らせました。その間、何度も国際電話をし、その費用も全て森さんの自己負担で、月々数万円もしたそうです。その森さんの行為に、オバマ大統領は感動され、広島訪問の際に、招かれたそうです。
オバマ大統領はスピーチでこう言われました。「広島で命を落としたアメリカ兵たちの家族を探しあてた男性がいます。家族を失った苦しみは自分と同じだと信じたからです」。これこそ仏教です。森さんは浄土真宗のご門徒です。
お経の中に共命烏(ぐみょうちょう)という鳥が出てきます。これは頭が二つで胴体―つの鳥です。この鳥には次のような話があります(諸説あり)。お互いの頭は敵対関係にありました。ある時、もう一方の頭に毒を混ぜたものを食べさせました。すると、毒を食べさせた鳥も亡くなりました。それは、胴体が―つだからです。相手を殺すことは自分を殺すことになります。
このお話は、この世を生きる私たちのことを物語っているようでもあります。地球という―つの胴体で、日本とアメリカ、それぞれ一つ一つの頭をもち、「私だけは」との思いから争いが絶えません。共命鳥は「すべてのいのちの尊さや、互いの存在を大切にしあう」ことを伝えています。戦争のない、共に生かされるいのち、平和を願う鳥。鳥に姿をかえられた仏さまのみ教えを表しています。森さんは、原爆を落とした敵方の兵士も自分と同じように見られ、だからこそ生涯を費やしてご遺族に知らせたのです。
2016年12月、広島で、日本が攻撃した真珠湾で犠牲になった方々をも含めた法要が営まれました。当時、参拝者の方々が平和を願い、共命鳥の折鶴をたくさん作ってお供えしました。法要後、その共命鳥の折鶴は、ハワイ別院へ送られました。平和の象徴として。